ソロ活動の開始から約4か月。弾き語りに限定しないスタイルのライブや楽曲の制作過程をファンと共有するという実験的な取り組みとなった「Project Open Source」をはじめ、水面下で進めてきたさまざまな活動がついに実を結び始めた。
その1つが5月2日に配信リリースするソロ第1弾EPの『杪春の候』。そこには表題曲をはじめ、ソロ活動の幕開けにふさわしい爆音で鳴るロック・ナンバーが3曲収録されている。しかし、「ここから変わっていきたい」と自ら語るように、それは今やりたことのほんの1つに過ぎないようだ。
「森良太は何をやりたいんだろう?」
そう思っている人も少なからずいるかもしれない。それなら森良太自身に語ってもらえばいい。どんな考えや思いの下、今現在、ソロ活動を進めているのか。そして、どんな未来像を思い描いているのか。改めて、森良太に訊いてみた。
インタビュー、テキスト:山口智男
――noteに森さんが書かれていた言葉を借りれば、「深淵に向かう手応えをもう一度取り戻すため」に、さまざまな活動を行いながら、新しいところに向かっている真っ最中ですが、今のところどんな手応えがありますか?
弾き語りに加え、他のメンバーも交えて、Brian the Sunとはまた違う形の音楽をやろうというのを、なんとなく手探りで始めて、やっと形になりだしたと言うか、手応えは確実にあります。
もちろん、Brian the Sun像っていうのがあると思うので、「それはいったん横に置いておいて」ってお客さんに求めるのはちょっと違うじゃないですか。
みんな、Brian the Sunの森良太を見にきてたと思うんですよ。ただ、そこは時間の問題で、みんなが段々慣れてきたら、「これだよね」って思ってもらえるようにはなっていくのかな。自分がやることに関しては、だいぶ見えてきたので、もっと幅広くこだわりなくやりたいと思っています。
その中で勝手に削ぎ落されていくのを今、待っているところですね。最初は肉付けがされまくって、それが生活していくうちにと言うか、歌っていくうちに削がれていくんじゃないかって思ってます。
――Brian the Sunの森良太を期待していたお客さんもそのうち森良太が今やりたいのは、こういうことなんだとわかってくれるはずだ、と?
わかってもらえればベストですけど、無理という人もいると思います。そもそもバンドの延長がやりたかったら、Brian the Sunをやっているので、それが見たい人はもしかしたら「違う」ってなるかもしれないけど、それはしかたない。
シンガー・ソングライターとしての森良太が好きだった人は楽しいと思います。
バンドとしてのパッケージングが好きだった人には何かしら違和感があると思うんですけど、そうなったほうが僕はむしろBrian the Sunの存在意義があるので、そのほうが全然安心ですね。どこかのタイミングで、「またやろうか」ってなった時に、そっちを見にきてもらえればいいしという気持ちです。
――ソロ活動を始める際に開設したこのオフィシャルサイトのトップページの写真でGretschのギターを持っているじゃないですか。これまでFender Jaguarを使っていたことを考えると、そういうところでも心機一転を印象づけようとしているのかな、と。
あぁ~(笑)。あのギターは見た目の態度がすごくでかいので、めちゃ偉そうなところがいいなと思っているんです(笑)。エレキとアコギのミックスみたいなギターなんですよ。
――そうか。確かにそうですね。
それもまた、弾き語りとバンド両方でライブをやっている今の自分を象徴しているようでいいなと思うんですよね。弾き心地も好きなんですよ。ハコモノのギターって今まで触ったことがなかったんですよ。合うやん!って思って買っちゃいました(笑)。
――韓国製だそうですね。
そうなんですよ。Gretschのモデルの中でもそんなに上のクラスのギターではないんです。Fender至上主義のビンテージ・ギター大好きな僕が、新品で、廉価版ってところがかわいいなと思ったという(笑)。
そういう感覚って今まであまりなかったから、何か心境の変化があるのかもしれない。
実はBrian the Sun時代からハコモノのギターにはちょっと興味があったんですけど、(小川)真司(Gt)がずっとハコモノのギターを使ってたから、なんとなく遠慮してたと言うか、自分はソリッド・ギターでって。
――ああ、アンサンブルのバランスを考えて。
そう思ってたんですけど、実際弾いてみたらすごくいいですね(笑)。
――今、肉付けてしているところとおっしゃったようにライブをやったり、楽曲の制作過程を、dropboxを使ってファンと共有する「Project Open Source」という新たな試みに取り組みながら、その「Project Open Source」の中ではラジオ番組もやったりと既成のスタイルに囚われない、さまざまな活動に取り組んでいます。「脳が忙しい」とnoteに書いていましたが、自らそういう状況に追い込んでいるんですよね?
たとえば、目をキラキラさせながらライブハウスにやってきて、「店長に気に入ってもらえれば、世界が広がっていくから、いいライブしないと」って思っていたバンドマンたちが年齢を重ねるにつれて、「そういうことじゃないんだよな」って気づき始めると言うか、ブランディングが必要だとか、お客さんを呼ぶためのマーケティングがどうだとか考え始めると言うか。
もちろん、ミュージシャンにもそういう経済感覚は必要だとは思うんですけど、それを考え始めると、作る曲も変わってしまう気がするんです。洗練されたものをわざわざ作りたがるようになると言うか、それができるってことが商業音楽の一歩目だとは思うんですよ。
人が求めているものを汲み取って、音楽を作る能力と言い換えてもいいですけど、ただ、それをやっているうちに、なんだかわからなくなってくるんですよね。
――その感覚はなんとなくわかります。
今、僕はそれを放棄して、やりたいことをやっている。
自分ってこういう人間だからとか、こういうふうにやっていきたいからとか、そういう枠組みから曲を作るのをいったんやめてしまったんですけど、それをやると、やっぱり散らかるんですよ。枠組みがないから。それを1つずつ形にしていくのは、めちゃくちゃパワーが要る。でも、いったん全部やりたいんです。
周りから見たら、「森良太は何をやりたいんだろう?」ってことになると思うんですけど、まずは目に見えていないものを可視化する作業と言うか、作って、作って、作って、あぁ、これが今の俺の形なんだってわかるための作業をやっていると言うか。
可視化することができずに、ずっと頭の中にあるものがふわふわしたまま、俺って何だろう? 俺っぽさってここだよねってやってたんですよ。でも、自分っぽさなんて自分が一番わかってない。
だから、とにかくわーっていろいろ作って、歌ってみて、お客さんと自分が共鳴している瞬間を拾っている。めちゃくちゃポップで甘い言葉を歌っているバラードなんて、今まで絶対書かなかったけど、書いてみたら、共鳴度が高かったりするんですよ。そういうものを拾っていって、自分にしていきたい。
自分の中にあるものを出すってことではなくて、今はひたすら自分であるかもしれないものをたくさん見たい。その中で、あぁ、みんなこれが好きなんだ。わかるわってものを作っていきたい。これまで以上に正直にやりたいんです。
これをやったら、おもしろいと思ってくれるだろうみたいな発想がないわけではないけど、そこからなるべく離れて、自分は何をしたいんだろうっていうのを、とにかく作ることで理解していこうと思っているんです。
――その中で、鈴村英雄さん(Ba)と田中駿汰さん(Dr)とのトリオ編成でライブをやっているじゃないですか。5月2日に配信リリースするEP『杪春の候』もその3人でレコーディングしましたが、3人での活動がいろいろやっている中での軸になると考えているんでしょうか?
その認識です。やっぱりバンドの最小単位って3人だと思うんですよ。だから、最初は3人でしょみたいな気持ちでやり始めました。
――ソロになってもやっぱりバンドはやりたいわけですね?
人と音を鳴らすって、めちゃめちゃいいなと思うので、バンドはやりたいですね。この間、リズムが存在する意味がビールを飲みながらYouTubeを見てたらわかったんですよ(笑)。
アフリカの人たちが3人で1本の杭を打つ作業をしているんですけど、1人がパーンと打ったら、次の人が打つ。それをリズムよくやるために歌いながらやっているんです。あ、音楽ってこのためにあるんだって。日本の田植えもそうじゃないですか。
――田植歌を歌いながらやりますね。
だから生まれたのかって。ただの娯楽としてテケテケ叩いているだけでも楽しいけど、それよりも1つの物事をみんなで完成させるためにあるんだって目から鱗が落ちました。
1人でやる音楽も好きですけど、何人かでやって1つのライブを作るとか、音楽を作るとかっていうのは、本能と言うか、自分がそれをやりたいと言うよりは、もっと根本にある人間の欲求なんだと思います。
――そうか、人間としての欲求なのか。noteでは鈴村さんと田中さんとの出会いを、蜻蛉獲りに譬えていましたが、田中さんとはBrian the Sunからのつきあいじゃないですか。鈴村さんとはどんなふうに出会ったんですか?
彼とは僕が高校生の頃からのつきあいなんです。当時、彼はライブの最後にベースの弦をひきちぎるというパフォーマンスをやっている超過激なバンドマンで、ニルヴァーナみたいなバンドをやっていたんです。そのライブを、高校生の時に見て、かっこいい!一緒にやりたいと思いました。
その後、何度か声をかけたことがあるんですけど、「俺、バラードは弾けないから無理やわ」って断われつづけてて。でも、僕の曲は「むちゃくちゃ好きだ」とずっと言ってくれてたので、ソロ活動を始めたタイミングで誘ってみたら、「やりたい」と言ってくれたんですよ。
――そんな長いつきあいだったんですね。
めっちゃ変な人で、感覚が“一般ナイズド”されていないと言うか、自分の感覚でしか喋らない。平気で対バンの人たちに「ライブ、全然良くなかった」って言っちゃうんです(笑)。
それを傍から見てると、だからこの人、売れなかったんだろうなって思うんですけど(笑)、それがめちゃめちゃいい。そういうところも好きです。
――田中さんには鈴村さんとやることが決まってから声をかけたんですか?
そうですね。駿汰にはいろいろなバンドで叩いてほしいし、自分の人生をドラマーとして生きていってほしいと思っているんですけど、これだっていう行き先が見つかるまでは一緒にやりたいと思って、「一緒にやらへん?」って声をかけました。
Brian the Sun時代も駿汰が音楽的にちゃんと繋ぎとめてくれてたんですよ。彼は元々、器用なタイプじゃない。だから、僕が求めることに対して、最初は届いてなかったんですけど、納得が行かなかったんでしょうね。誰よりも練習して、うまくなって、今ではサポートもいろいろなところでできるようになった。
人って努力でここまで行けるんだって教えてもらいました。バンドをやっている時も、技術的に不可能がことがあったとしても、駿汰がそれを超えていった姿を見ていたから、「練習すればできるんじゃない?」ってやって来られたんですよ。それが心の支えになっていたので、ぜひ一緒にやりたいと思いました。
――そんな鈴村さんと田中さんとレコーディングした『杪春の候』の3曲では、ガレージやグランジを思わせる轟音のロックを鳴らしていますね。
2人と出した音がそれだったんです。でも、その後、全然違うタイプの曲もできたので、その意味では、幅広くこだわりなく作っているんですけど、その中で今回、配信リリースする3曲が順番として最初に出てきたってだけで。全部出した後、振り返ったら、すごい幅があるねってことになると思います。
EPの3曲がそうなったのは、もちろんBrian the Sunの延長ってところもあると思います。Brian the Sunでやっていたギター・ロックの音像が体に染みこんでいる状態で、3人で演奏してみたら、Brian the Sunとは違うものができた!なるほど!みたいな感覚はありましたね(笑)。
――今回の3曲は森さんが作ったデモを基に3人で、スタジオで合わせていったんですか?
そうです。だから、ベースのフレーズはデモとは違って、鈴村のフレーズになってます。そういうクセがあるのもいいですよね。なので、Brian the Sunでは割と忠実に(白山)治輝(Ba)がデモのフレーズを再現してくれてたんですけど、今回は破壊と構築と言うか、何回もやり直しながら形にしていったんです。
本当は、そういうことを1曲に対して、もっともっとやりたいんですけど、やりすぎると永遠に完成しないので(笑)。最初はもっと楽器が入っていたんですよ。ピアノも入っていたし、ギターももっと重ねてたし。5、6バージョン作って、一番簡素な形で出すことにしました。
どちらかと言うと、自分の中ではデモ的な意味合いのEPなので、これが完成品と言うよりは、ここから変わっていきたいし、もう1回録音したいし。だから超シンプルな形で出すことにしたんです。
――3曲どれもかっこよかったです。
そう感じてもらえてよかったです。むちゃくちゃシンプルに作ったので、音の隙間もめっちゃあって。本当はもっと埋めたほうが聴きやすいと思うんですけど、敢えて隙間だらけにしました。ストリングスを入れてもいいぐらいに思ってたんですけどね。全部抜きました。
今までの制作の現場って言うか、売りたいって発想だったら入れたほうが派手になるんで、入れてたと思うんですけど、最初は可能性がいろいろ感じられるプレーンなものでいいだろうと考えたんです。
――今回の3曲、ギターは森さんが1人で弾いているんですよね。
めっちゃムズかったです(笑)。
――トリオだけにこだわっているわけではないとは言え、トリオがライブ活動の核になるという意味では、やはりギタリストしてもアップデートしていかないとという気持ちもあるんですか?
ギターは元々好きなので、もっと弾きたいし、もっと練習したいとも思うんですけど、今回、作りながら、横で弾きたいと思ってくれる人がいるなら入ってもらってもいいと思いました。
情熱的でかっこいいギターを弾いてくれる人がいるなら、ぜひ入ってほしいです。ギターに限らず、オルガン弾きでもピアノ弾きでもいい。そこに対してもこだわりがあるわけではないんです。かっこよくなるなら、そっちを選ぶし、自分が弾くよりもいいと思えば、誰かに弾いてもらっても全然かまわない。
だから、「ギターを入れてみたんですよ」ってことができるくらいの隙間を残している。そういうのがあるなら、ぜひ聴かせてもらいたいです(笑)。
――我こそはと思う人は、ぜひ連絡してほしい、と(笑)。
ちゃんとメジャー・デビューさせてもらって、ちゃんと活動していたバンドなので、さぞ何かしら計画があって、ここから先もやっていくんだろうってみんな思っているかもしれないけど、みんなの想像を絶するくらいノー・プランなんですよ(笑)。
行き当たりばったりの極みで、今を生きているので、本当にどうなるかわからない。別に商業的な面でサポートしてくれるチームがいるわけでもなく、いっちゃん普通の、いっちゃんシンプルなミュージシャンとしての形でやっているんで、みんながもしエンタメ性とか、もっと華やかなものを期待しているなら、たぶんそれはもうしばらく見られないと思います。
もっともっと原始的なことをやっていくつもりでいるし、でも、ある日、「やりましょうよ」っていう人が現れたら、エンタメ的なこともやるかもしれないし。そこにこだわりがあるわけでもないんです。でも、みんなは音楽を聴きにきてるんでしょ? 何かまずいことありますか? そんな気持ちでやってますね(笑)。
――確かに今回の3曲は商業的でも、エンタメでもないけれど、いわゆるロック・シーン、インディーズのロックと限定してもいいですけど、そういうところでも全然埋もれないインパクトはあると思います。
簡素にしてもカラフルに聴こえる工夫は経験則としてあると言うか、ロックはずっとやってきたから、なんとなくできるのかなと思いつつ、簡素なスタイルにこだわるのには、やっぱり機動力が高いからっていうところもあって。というのは、日本だけでやっていたいわけじゃないんですよ。
――なるほど。そこも考えているんですね。
コロナ禍が終わって、海外に行けるなら、どんどん行きたいんです。全世界どこでも呼ばれたら行くぐらいに思ってるんですよ。国内の需要に合わせていくつもりはなくて、ちょっと顔を上げて、周りを見渡せば、日本のギター・ロックを最高にかっこいいと思ってくれるところがあるかもしれない。
もちろん、日本は大事なんですけど、でも、もうそういう次元じゃなくない?っていう。言葉の壁はあるにせよ、もっと広く外に出ていっていったほうがいい気がしてますね。日本だけ見てると不安なことはたくさんあるけど、世界を見たとき、音楽人として生きていく方法は山ほどあると思うんですよ。
話はちょっと変わりますけど、正直、今の日本のヒット・チャートには個人的には全然ときめかないんです。仕組みがわかってしまってるから、あぁ、次はこの人らが売れるんだろうって言うか、この人らを売るんだろうなってわかるんで、それならヒット・チャートに入るような音楽じゃなくて、本当の意味でときめくような音楽を作りたい。
今、日本に飼い馴らされていないロック・バンドがいるかっていったらいないじゃないですか。そんな状況に抗うような生き方をしたい。でも、それって何なんだろうって考えたとき、日本の中でどれだけがんばって、そこに牙を剥いてもスケールが小さいままで終わることがわかってるから、だったらやっぱり外にでていくべきだろうって。
――今のお話を聞いて、EPに収録されている「杪春の候」「楽園」の歌詞に、どんな思いを込めたのかがよくわかりました。
世の中の仕組みは、小さい魚がでかい魚に食われるようになっているんですよ。それが進んでいったらどうなるかと言ったら、世界は1つになっていく。お金を含め、パワーが1か所に集まっていくって当然の流れじゃないですか。アップルだってCPU を、ついに自社で作り始めたし、音楽の世界でも似たようなことが起きてくる。全員がiPhoneを使っているという状況を想像したら怖くないですか?
――確かに。
でも、自分も含め、みんな、それがわかっていながら便利だから使う。それならせめて思想だけでも抗っていたいと思ったんです。
――それが音楽を含め、アートの役割というところもありますからね。さて、行き当たりばったりとおっしゃっていましたけど、配信リリース、5月7日に新宿LOFTで開催される「LOFT三つ巴2021」以降の活動については、どんなふうに考えているんでしょうか。最後に聞かせてください。
本当に行き当たりばったりなので、まだ何も決めてないです(笑)。ただ、自分がやっているってことを、まだ仲間にすら周知できてないんですよ。近くにいる人たちはわかってくれてるんですけど、こうやってちょっとずつ広げる作業をしていったら、「おもろいことやってるやん」って絶対思ってもらえるはずだし、そこからまた広がっていくと思うので、もうしばらくは水面下の活動が続くと思います。でも、そこから表に出てきたとき、おもしろい形になりだすと思うので、それまではみんな、ライブを楽しみにのんびり待っててください。
2021.04.10